その山を見上げて

読書と思考を積み上げていきます。

『あっという間に人は死ぬから』──自分でコントロールできる心の領域は?

例によって私は最近まで知らなかったのですが、かなり人気のある本のようですね。

タイトルから見て正統派の「時間術」的な本かと思いましたが、割とそうではなくて「認知」や「自己」について考えさせる哲学的な話の進み方をする本でした。

そういった哲学的な問いに対して、心理学や認知科学といったような方面からアプローチを試みるという非常に面白いバランスの本だと思います。

それでは、

この本について『あっという間に人は死ぬから』を読んで、少しだけ考えてみます。
『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』の書影
『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』
著者
佐藤舞(サトマイ)
訳者
-
出版社
KADOKAWA
発行日
2024年07月19日
※書影は出版社公式サイトより引用
目次

私的要点

  1. 1

    「死」「孤独」「責任」の3つが、人間の直視できない「人生の3つの理」

  2. 2

    「人生の3つの理」を避けるための「代替行動」が時間浪費の正体

  3. 3

    自分自身で変えることができる「認知」と「行動」を変える。自分の心に従って行動することで人生を有意義にする

所感メモ

感想として「The・自己啓発本」を読んだな、というような思いが残りました。

著者は「データサイエンティスト」をされている方とのことで、哲学的な内容を扱わざるを得ないテーマではありつつも、客観的に説明するために努力して書かれているのであろうことがわかります。

とはいえ、数字!データ!統計!というようなことは無く、著者のご職業から連想されるような「分析」というよりは「思考」から出てきた内容ではないのかな、という印象です。

中でも印象に残ったのは「人生の3つの理」についての話でした。

「死」「孤独」「責任」を避けようとする

これは非常に面白い視点だと思いました。

人間は他の生物と比べて、心が必要以上に発達してしまい、「子孫を残すことで自身のDNAをつなぐ」という、遺伝子のプログラムから若干外れかかっているというような考えを聞いたことは無いでしょうか?

そういった人間ならではの、同時に避けることができない内容でしょう。それゆえに万人が「無意識に避けようとする」内容でもある、というのは納得がいくように思います。

だからこそ、

  • 何かに熱中し「死」から考えをそらす
  • 他人に依存して「孤独」を紛らわす
  • 他人に従い「責任」から逃げる

こういった対応をとってしまう。そして、こういった無意識の行動こそが本書のタイトルにもある「時間を食べつくすモンスターの正体」という主張ですね。

大人になると時間の流れが速くなる

私も年齢を重ねるにつれて実感する機会が増えてきた内容です。

本書のつかみにもなっている、
「小学生は20分の休み時間でもドッジボールを楽しんで帰ってくる」これは改めて考えると不思議体験ですよね。

これについて著者の見解を引用してみます。

「大人になると時間の進み方が早くなる」ことの理由には諸説ありますが、「行動のパターン」が有力です。大人になると同じことの繰り返しで脳が慣れてしまうため、新しいことを経験した時より刺激が少なく、「時間が短い」と脳が錯覚してしまうのです。

『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』P.10より引用

よく言われている話ではありますが、非常に納得性が高いと思います。

以前ブログで取り上げた、『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』にも

「習慣は脳が認知負荷の軽減用に用意したショートカットである」というような記述がありました。

一日中ショートカットをポチポチしてるだけの毎日が続いていたら、そりゃ脳も

  • 何も心に残らないな
  • 何もない日々が続いてるな
  • 気づけばもう年末か

なんて思っても不思議ではありませんよね。

何というか「生きること」「歳を重ねること」の意味を考えさせらる内容です。

この内容をどう生かすか

本書では「自身の本心を明確にし、それに従って行動すべし」という主張で話が進められますので、それに沿って自己分析用のワークなども用意されています。素直に取り組んでみてもいいのではないでしょうか。

ただ、私は現状自己分析は済んでおり、「読書する」「考える」「書く」が結論だと(少なくとも今は)明確になっているのでスキップ予定です。

その代わりに、以下の内容は覚えておきたいと思います。

心理学研究の信頼性について把握しておく

本書で言われている通り私も「”科学的エビデンス”に基づいた方法論」というようなものをかなり気にしてしまうタイプの人間です。そのど真ん中かもしれません。

しかし、それについて注意を促すような内容がありました。引用してみます。

 実は、みなさんがいろんなところで目にする心理学研究は、「報告されている研究の半分以上が擬陽性(統計学的には偶然の結果でしかないものをあたかも確からしいものであるかのように報告)かもしれない」という報告があります。

 2015年に『サイエンス』に掲載された論文では、100本の心理学研究を追試したところ、最終的に再現に成功した研究は、39%だけでした。

『あっという間に人は死ぬから 「時間を食べつくすモンスター」の正体と倒し方』P.96より引用

これは衝撃と同時にとても勉強になりました。私は基本的に本から情報を集めており、論文まで手が回っていないので、こういった情報が手に入らないんですよね。

ですので、過度なエビデンス信仰」に陥ってしまわないよう肝に銘じておくつもりです。

このことを知ることができただけでも、私にとって本書を読んだ甲斐がありました。

関連する読書メモ

・『習慣の力』

この本に対する言及あり。私のブログでは両記事とも直接扱ってはいませんが、キーストーンハビットについての話が出てきました。(個人的には引用のしかたが若干、強引な気もしました。若干ね)

自分の読んだ本に対する他の人の見解を覗き見たようでとても面白いです。

bookandthink.com

・『ジェームズ・クリアー式 複利で伸びる1つの習慣』

本書の内容と直接関係はありませんが、所感メモにて「習慣は脳のショートカット」の記述を出しましたので、リンクを置いておきます。良ければご覧ください。

bookandthink.com

・『原因と結果の経済学』

私が「因果関係」と「相関関係」の違いに気を付けようと思ったきっかけの一冊です。コラムにてエビデンスにも信頼性の高低がある」というような記載から本書を連想しました。こちらの内容も併せて抑えておいて損はないのではないかと思います。

 

気になった言葉

後日調査したらリンクを追加予定です。

  • 分析麻痺

ひとこと

非常にバランスが良く、構成もしっかりしている良い本でした。

私にとっても「科学的エビデンス」がらみの良い見解を知ることができ、心に残る一冊になるかもしれません。

自己啓発本とは?」と誰かに聞かれたとしたら、当面私は本書を紹介すると思います。それくらいの価値があると思いました。