現代社会における「移動」とはどういった意味をもつでしょうか。
- 買い物
- 引っ越し
- 旅行
様々な移動がありますが、「移動できること」を当たり前に思っている部分も多いのではないかと思います。
本書はそんな我々に新しい視点を提供してくれる本です。
今回は『移動と階級』を読んで「移動」についての見解を得ようと思います。

- 著者
- 伊藤将人
- 訳者
- -
- 発行日
- 2025年05月22日
この本について
どのような本か
「移動」とそれを取り巻く社会的、政治的な背景について考察した本。
- 「移動」の研究について
- 「移動」の格差について
- 「移動」に関する論点
- その解決策の考察
といった流れで、「移動」にまつわる社会情勢についての内容が展開されます。
どんな人に向いているか
- 「移動=成功」という考えに懐疑的な方
- 「旅行」「引っ越し」といった移動に関心のある方
逆に以下のような内容を期待する方には向かない可能性があります。
- 「移動」で得られる効用を知りたい
- 帯に書かれている「人生は移動距離で決まるのか?」に対する結論を期待する方
私的要点
- 1
収入や性別、家族の抱える問題といった状況から生じる社会階層によって、「移動格差」が生じている。「移動できないこと」は単なる”自己責任”ではない
- 2
「移動が成功をもたらす」という考え方は、「ネットワーク資本」+「能力主義」+「生存者バイアス」という言葉の組み合わせで解釈ができる
- 3
企業・行政・住民が協力し、「公正」で「持続可能」な移動インフラを考えていく必要がある
所感メモ
本書を選んだ理由
現在私は「定住生活が人類に与えた影響」について調査しており、その一環として「移動」というテーマに興味を持ったためです。
また、同様の目的で読んだ『移動する人はうまくいく』という本も、「移動」に興味を持つきっかけとなり、本書を手に取りました。
感想
先述の通り、「移動」そのものというよりは、「移動を取り巻く社会情勢」について考察した本でした。
定住に関しても若干の言及はありましたが、直接ヒントを得ることはできませんでした。しかし、最近よく耳にする「移動=成功」という考えに関する客観的な意見を得られたのはとても良かったです。
私も最近『移動する人はうまくいく』というを読みました。
「環境が変わることで眠っていた能力が引き出される」という主張についてはとても刺激を受けましたが、同時にあまりに主観的すぎる主張に若干拒否感を覚えたのも事実です。リンクを貼った記事の文章からもにじみ出ていると思います。
自分に都合のいい意見を集めたいわけではありませんが、第三者の目を通した客観的な意見を得られたのは良かったです。これからも「移動」をテーマに本を読んでいきたいです。
また、本書の巻末には「移動をもっと考えるためのブックリスト」としておすすめの本が複数紹介されているのもとても助かりました。
ここから何冊か読んでみて、引き続き「移動」について学んでみたいと思います。
本書の主題「移動格差」
本書のタイトルともつながる内容です。
ここで直接そのデータを載せるようなことはしませんが、本書では独自のアンケートの結果として、年収や性別ごとに
- 飛行機、新幹線、タクシーといった交通機関と使用したか
- 自分の意志で自由に旅行ができるか
- 海外旅行に行きたくても行けなかった経験があるか
といった質問に対する調査結果が示されており、その結果から
- 年収
- 性別
- 家族に障がいを持つ方がいるか
こういった事情により、自由に移動ができる人とそうでない人の格差が存在していることが示されていました。
「いつでもどこにでも、自由に移動できることが当たり前」だと思ってこれまで暮らしてきた人には、それがある種の恵まれた地位や権利であること、そしてそれはいつ失われるかわからない、意外と不安定な当たり前であることを実感し、移動について考えるきっかけになれば嬉しい。
『移動と階級』P.234より引用
先ほど挙げたような要因によって移動できない人も存在しています。
よって、「移動できるか」というのは個人の意思だけで決まるものではなく、「移動できない」ことは単純な”自己責任”ではないということです。
そして、社会全体で考えていかないといけない課題の一つでもあります。
これを伝えることが本書の書かれた最大の目的であると考えていいでしょう。
「移動=成功」に対する考え方
繰り返しになりますが、昨今話題の「移動することで成功できる」という主張がどのように発生したのかについても考察されています。
該当部分を引用してみます。
もっと言えば、移動力を発揮して成功するという思想は、好きなときに好きな場所へ移動できる、極めて限られた特権的な人間を中心とした思想なのである。
ある大学で担当している講義の中で、ここまでの話をしてみた。すると、「移動で多くのことを見て経験して視野が広くなっているはずなのに、なぜ、『移動しないの?早くすればいいじゃん』という様な態度をとる、視野が狭い人間になってしまうのですか?」と質問された。理由は、能力主義と生存者バイアスにより、失敗した経験を脇において、自分の成功した経験のみを基準に判断してしまっているからだと考えられる。
『移動と階級』P.122より引用
前提条件を整理します。
まとめるとこういった具合でしょうか。
- 自分は様々な移動を経験して成功した
- 成功できないのは一か所に留まるから
- 移動したものは成功し、留まるものは落ちていく
- だから、成功するために移動すべき
こういった論理の展開によって生まれているということでしょうか。
そう考えると、「移動=成功」論者に対して、「自分勝手な主張を押し付けやがって!」と憤慨しそうになりますが、本書のこの見解も一つの意見でしかありません。
日本企業にある他部署への人事異動のように、環境が変わることによって個人の思わぬ資質を発見するような事例は目にしたことがあると思います。
ですので、「移動=成功」これを考え無しに押し付けるのではなく、真っ向から否定するでもなく
- 移動して失敗した事例は?
- 移動したくてもできない人もいるのでは?
- 自身の成功で天狗になってないか?
こういったことを問いかけ、自分の主張を受ける側にも想像を巡らせる。こういった段階を経ての主張であれば、もっと好意的に受け入れられるのかもしれません。
自分の意見に対しての客観的視点を持てているかは常に考え続けていきたいですね。
結論
- 「移動」は社会的、政治的な影響を受ける行為であり、社会全体で「移動」について考えていく必要がある
- 「移動」について学ぶなら通過すべき一冊
発展を考える
「ノマド」は幻想なの?
本書では「ノマド」という言葉についても触れられています。
元々は「遊牧民」を指す言葉で、最近では「ノマドワーカー」という言葉も普及していることからも、友好的に捉えられていることが分かります。憧れを持つ人も多いのではないでしょうか?
しかし、本書ではノマドは「憧れのライフスタイル」というだけではなく、失業により家を失い、仕方なしにノマドにならざるを得なかった人たちの存在も上げています。
一度「ノマド」という生き方の実態ついて調べてみたいと思いました。
ただし、それをどう調べるかは課題ですね。ひとまず「ノマド」がテーマの本を読んでみようかと考えています。
関連する読書メモ
・『移動する人はうまくいく』
この本への言及がありました。ただし、タイトルでもある「移動する人はうまくいく」へは若干懐疑的な見方が示されています。
・『原因と結果の経済学』
「因果関係と相関関係を見誤るな」という主張の本です。本書の内容だけでも「これって明確な因果関係があると言えるかな?」と思うような記述はあったように思います。モノの見方としてと知っておくととても有効です。
気になった言葉
後日調査したらリンクを追加予定です。
ひとこと
「移動」というのは、私にとって「定住生活」の調査の過程で偶然出会っただけの言葉でしたが、本を読んでいくと大変興味深く、自分自身にも密接につながるテーマだったことを実感しました。
「移動」本、今後も読んでいきたいと思います。