その山を見上げて

読書と思考を積み上げていきます。

『遊牧民から見た世界史』──”遊牧民”についていかに無知だったかを知る

「定住」「移動」について調べていくうちに、「ノマド(遊牧民)」という言葉に遭遇しました。そして、その「遊牧民」についての概要を知るべく本書を読みました。

本書では、「遊牧民」という視点から世界史を捉え直そう、という様な考えが提示されており、『サピエンス全史』のような西洋目線の世界史を見てきた人間としてとても新鮮でした。

ここでは、『遊牧民から見た世界史 増補版』を読んで目に留まった要素を整理してみます。

書籍情報
『遊牧民から見た世界史 増補版』の書影
『遊牧民から見た世界史 増補版』
著者
杉山正明
訳者
-
出版社
日本経済新聞出版
発行日
2011年07月05日
※書影は出版社公式サイトより引用
目次

この本について

どのような本か

ジャンル

世界史

テーマ

西洋の「文明」的な従来の目線とは異なり、「遊牧民」という観点から世界史を捉え直し「国家」「文明」に対する従来と異なる見方を提供する

どんな人に向いているか

  • 「西洋中心の世界史」とは違う歴史を知りたい人

注目した要素

  1. 1

    遊牧民の主要3国家
    スキタイ、匈奴、モンゴル これを押さえておく

  2. 2

    ”遊牧民”という民族がいるわけではない
    人間の集合体としての国家を指す

  3. 3

    遊牧と農耕は完全に切り離せない
    「完全に遊牧」、「完全に農耕」は切り離せず、部分部分で必要に応じて取り入れていた

所感メモ

本書を選んだ理由

最近「移動」「定住」について調査をしています。

そういった内容の本を読み続けていると「ノマド」という言葉に出会うことが良くありました。「遊牧民」という意味だとされている言葉です。

また、少し前に「ノマドワーカー」という言葉が流行したのも記憶に新しいと思います。

その源流となった遊牧民の文化や価値観を探るべく本書を手に取りました。

遊牧民に対する誤解

本書で私がどれだけ”遊牧民”に対して誤解していたというか、無知であったかが分かってきました。

2つ取り上げて残しておきます。

単一民族ではない

”遊牧民”と聞いて、私もまさに「そういう民族がいたんだな」なんて漠然と考えていました。しかし、実際には

  • スキタイ
  • 匈奴
  • モンゴル帝国

こう言った国家は、様々な生活様式の人間集団の集合体としての「国家」であり、「民族」を指す名称ではないということでした。

(前略)「遊牧民族」「遊牧民族家」といわれると、非常に抵抗感がある。史上で、それなりの「遊牧民国家」をつくったとされる諸例を見ると、純正な遊牧民だけの「国家」というものはほとんどない。いずれも、大なり小なりハイブリッド状態にある。多種族国家(マルティ・エスニク・ステイト)なのである。

 そもそも、その中核となる遊牧民集団そのものが、さまざまな雑多な団体・種族・勢力が寄り集まった「政治集団」、「政治連合体」であるのがふつうである。まして、「帝国」(中略)と表現されるほどの大型・広域の政治権力となってしまうと、もはや多種族・多文化・他社会が併存・混成した多元複合体としかいいようがなくなる。

『遊牧民から見た世界史』P.48-49より引用

長々と引用してしまいましたが、これは絶対に覚えておきたい事実です。

実際私は漠然と「そういう民族がいるんだな」などと、まさにこのような誤解をしてしまっていました。

実際には、「遊牧民」というのは「民族」という言葉で括ることができない集団であるということですね。

ということは、「遊牧民」について調べる、というのはとても大きな括りを追おうとしているということになりますよね。

せめて「スキタイ」「モンゴル」というように国家単位で括って調べていく方がいいのかもしれません。

”遊牧”と”農耕”は切り離せない

ここも遊牧民に対する誤解として、私の中に大きく存在していた部分でした。

最近読んだ『反穀物の人類史』でも述べられていた内容でもありますが、「遊牧民」と言っても完全に遊牧だけで生活しているわけではなく、農耕定住民とも交流・交易も不可欠だったという事実があるようです。

 ただし、遊牧生活は、極端な余剰生産をもたらさない。しかも、下記の大旱魃や野火の発生で、牧地が壊滅することもある。ひどい場合は、冬季の寒波や雪害で、集団がまるごと消えうせたりするパニックもある。危険と恐怖が、たえずつきまとう。また、日用の生活必需品から、農業生産物、さらに各種の戦具まで、完全に自給自足することはできない。それだけでは、存立できない経済生活である。

『遊牧民から見た世界史』P.40より引用

我々の漠然とした”遊牧生活”に対するイメージからでも、よくよく考えてみれば当たり前のことではありました。

移動生活においてすべてを自給自足することは不可能であり、都市や集落に定住する人たちとの交易は生きていく上で必須だったようです。

そして、先述の「遊牧国家」はこういった様々な形態で生活する人々を包括した名称だったということですね。

これは今後も遊牧民について調査を続けるうえでの必須の前提条件となるでしょう。しっかりと覚えておきたいと思います。

”草原”という言葉

恥ずかしながら今まで詳しく調べたこともありませんでしたが、ユーラシア大陸の中心中央アジアには「ユーラシア・ステップ」と呼ばれる広大なステップ(乾燥地帯)が広がっています。

そして、今回取り上げられている「遊牧民」たちはその環境に適応して生まれてきたとのことでした。

そして、遊牧民に関連する文脈ではこの地域が”草原”と呼称されているようです。(もしかして一般常識?怖くなってきました)

また、この地域が「乾燥地帯」であることは重要な要素となってきます。

 肝心なことは、こうした世界にあっては、(中略)つまりは広い意味でのオアシスをのぞくと、人間は一か所に定住したかたちで生活をいとなむのはむつかしかったことである。農耕はもちろん、定住型の牧畜もまずむりである。

 ところが、広大なこうした大地に生きる人びとがいた。───いわゆる牧畜移動民(パストラル・ノマド)である。

『遊牧民から見た世界史』P.34より引用

引用はしたものの省略しすぎて意味わからないと思いますが…

遊牧民、いや”遊牧移動民”の生活様式はこうしたステップの環境に適用しようとして生まれてきたということは絶対に抑えておきたいと思いました。

今後も引き続き遊牧民についての調査を継続していく予定ですが、本書で学んだ”草原”という環境に関するキーワードを念頭に置いて進めていきたいと思います。

発展を考える

文化や価値観が知りたい

本書は遊牧民視点で「世界史」を捉え直すことが主眼の本でした。

それでも遊牧民に対するいくつかの重要情報を得ることができました。先ほど挙げた

  • 単一民族ではない
  • 定住とも密接にかかわる
  • ”草原”という概念

これらですね。

しかし、もう少し文化・価値観に対する情報が欲しいと思いました。

ただ、本書でも書かれていますが、「文字で記録を残す」というのは基本的に定住農耕民から生まれた「文明」側の考え方のようです。

そのため、肝心の遊牧民たちは自分たちの記録を残しておらず、周囲にあった「文明」が残した文献から推測することしかできないようです。

実際本書でも、スキタイはギリシア、匈奴は漢という、周囲に存在していた文明の記録から読み解いていくような方式が取られています。

こういった事情もあってか、なかなか「遊牧民の文化・価値観に詳しく言及されて良そうな本がない」というのが今のところの悩みとなっています。

”ない”というのは、存在し”ない”というより、書きようが”ない”ということを意味しているのでしょうが…

そのため調査はしていきたいのですが、まずは何かいい資料を探すところからスタートになりそうです。

関連する読書メモ

・『教養としての「世界史」の読み方』

この本でも遊牧民に関する記述があったことを思い出しました。改めて読み返したいと思います。また、文明の発生に「乾燥」が関係しているという記述も登場します。

それぞれの関わり方はどうあれ、「乾燥」は古代人類史の重要ワードのようですね。

bookandthink.com

・『反穀物の人類史』

この本でも遊牧民と農耕民がかなり密接に関連していたことに言及されています。また、「文明」に対してあまり肯定的でない見方が示されているように感じられ、それもまた本書と共通点を感じさせます。本書と近い時期に読んでいてよかったです。

bookandthink.com

・『サピエンス全史』

とても大きな視点で”人類史”を捉えていく本です。しかし、遊牧民やユーラシアについての記述はほとんどなかったように思います。これこそが本書の著者が疑問を呈する「西洋目線の世界史」なのではないかと思いました。

名著であることに間違いはありません。読む価値があることも間違いありません。しかし、少しだけ捉え方が変わり始めました。とても面白いです。

bookandthink.com

気になった言葉

後日調査したらリンクを追加予定です。

  • 草原
  • ユーラシア

ひとこと

「遊牧民の文化・価値観を知る」という当初の目的とは若干内容が外れていましたが、とても面白く、今後調査を進めるうえで重要な「遊牧民の基礎」ともいえる情報を得ることができました。

若干の読みづらさはありましたが、「遊牧民」について知るのであればとても有用な本でした。