人類活動によって絶滅した生物はたくさん存在します。
そういった内容に触れていると、「人類と他の生物との共存を実現することはできないのか?」と考えてしまいます。
本書では日本一の人口密度を誇る東京で「幻の鳥」カワセミがなぜ、どのように暮らしているのか、という内容について考察されています。
今回は『カワセミ都市トーキョー「幻の鳥」はなぜ高級住宅街で暮らすのか』を読んで、目に留まった要素を残しておきます。

- 著者
- 柳瀬博一
- 訳者
- -
- 出版社
- 平凡社(平凡社新書)
- 発行日
- 2024年01月
この本について
どのような本か
ジャンル
社会、生物
テーマ
東京で暮らすカワセミの生態と、東京にカワセミが戻って来た理由について考える
どんな人に向いているか
- カワセミの生態を知りたい人
- 人と他生物の共生を考えたい人
注目した要素
- 1
東京にはカワセミが多く暮らしている
意識して探してみると東京の川にはカワセミの姿が見られる - 2
「新しい野生」と「古い野生」
人間の手があまり入っていない「古い野生」と - 3
「住みやすい土地」は保護された
本来、人間が住みやすい土地は生物も住みやすい。住みやすい土地は権力者たちが囲っていたため、自然が残っていた
所感メモ
本書を選んだ理由
最近地球温暖化や人類活動に伴う気候変動についての本を読むようにしています。
それに伴いどうしても「人間と他の生物は上手に共生していくことはできないのか?」と考えるようになってしまいます。
カワセミと言えば、
- きれいな川に住む
- 現在は数が減った
- 自然の残る地域でしか見られない
という印象を持っていましたので、そのカワセミが東京に住んでいるということは、東京で何か「生態系の再生」がなされたのか?と思い、それを事例として知りたかったため本書を読みました。
新しい野生であるカワセミ
本書では、東京にカワセミが住み始めた理由が考察されています。
ただ、私が想像していたような「生態系の再生」のようなものではなく、人間が作りだした環境に適応した「新しい野生」であるとされていました。
「新しい野生」とは、科学ジャーナリストのフレッド・ピアスという方が、『外来種は本当に悪者か(原題The New World)』という本で提唱した考え方とのことです。
この本は後日読みます。(楽天ブックスもAmazonも新品の取り扱いがない…)
人間はアフリカで誕生して以来、周辺の環境を改変することでサバイバルしてきた。狩りを行い、地形を変え、農業を発明し、家畜を育てた。さらに工業を発展させ、エネルギーを大量に消費し、気候を変えてしまった。かくして、地球上の生態系はすでにあらゆるところで人間の影響を受け続けている。とりわけ、人間が従来の生態系を蹂躙し、外来生物を呼び込み、農業化、工業化した都市空間には、かつてとは似ても似つかない生態系が生まれている。
それをピアスは「新しい野生」と呼んだ。
『カワセミ都市トーキョー』P.20より引用
カワセミがどのように生活しているか。
詳細は本書を直接読んでみていただきたいですが、簡単に言うと
- コンクリートで護岸された川に住み
- 川に捨てられたゴミに止まって獲物を探し
- 外来種のエビや魚を食べ
- 川岸のコンクリートに空いた水抜き穴に営巣する
といったような生活をしているとのことです。
もう何から何まで人間が作りだした生態系に沿って生活しており、疑う余地もなく「新しい野生」であるということですね。
このような、一見人間からすると劣悪としか思えない環境にカワセミが戻って来た要因として本書では以下3つを挙げています。
- 河川の水質の改善(高度経済成長期と比べれば)
- 東京には「古い野生」が残されていたこと
- 護岸された川がカワセミが生きられる構造になっていた
大きく分けてこれが挙げられています。
続いて「古い野生」について見てみます。
図らず保護されていた古い野生
本書でカワセミが”東京に”戻ってきた要因として挙げられていた
- 「古い野生」が残っていた
ということについてです。
まず前提条件として覚えておきたい内容がありましたので引用してみます。
(前略)一般に「自然」という言葉は「人間の手がいっさい加えられてない手つかずの場所」を指す。
(中略)
近年の多くの研究が、この地球上にもはや定義通りの「自然」は存在しない、と語っている。手つかずの自然の典型のイメージで知られるアマゾンの原生林だが、中世にヨーロッパ人が上陸する前の遥か昔から、先住民たちがかなり広範に手を加えていた痕跡がうかがえる。手つかずの自然のお手本とされるアメリカの自然公園も、やはり先住民が手を入れた果てに今の生態系があることが判明している。
(中略)
ましてや、日本のような小さい列島に手つかずの自然は少ない。
『カワセミ都市トーキョー』P.274-275より引用
現在の地球上に存在するのはほとんど人間の影響を受けた結果としての「自然」であるということですね。
これは前提として押さえて上での話とはなります。
本書で示されている、東京に「古い野生」が残されていた理由につながる要素を挙げてみます。
- 小流域の源泉は”一等地”だった
- 流れがあり、川になり、周囲に緑があるという場所を指す
- それは人間が本能的に「美しい」と感じる場所
- 有力者の屋敷や公園といった形で囲われた
- そのため「緑の孤島」として生き残った
こうして生き残った図らずも生き残った「古い野生」を起点としてカワセミが「新しい野生」として再定着することにつながったのではないか?とされています。
(そしてその東京の「古い野生」の総本山は皇居ではないかとのこと)
これはかなり面白い視点です。
こういった人間が自然を本能的に好む傾向のことを「バイオフィリア」と言うそうです。
人間という生き物は、生まれながらにして「周りに生き物がたくさんいる状態が大好きだ」というのだ。生き物がたくさんいる環境というのは限られている。だから人間は生き物がたくさんいる環境を好むようになる。
『カワセミ都市トーキョー』P.232より引用
これは、1980年代にエドワード・O・ウィルソンという方が提唱したそうです。改めて調べてみたいですね。
何にせよ、人間がこういった傾向を持っているからこそ、どのような形にせよ、古い野生が現存することができたということですね。
結局のところ、人間もまた「自然」から自信を完全に切り離すことはできないということでしょうか。
発展を考える
「再生」ではなく「復興」「変化」の話だった
本書の内容をよく確認せず買ったため、「自然の生態系が再生した例がわかるかも」と思っていました。
しかし、本書を読むとカワセミが戻ってきた要因は
- 水質の改善
- 東京に「古い自然」が残っていたこと
こちらが挙げられていました。前者は素直に「成功例」でいいと思います。
ただ、問題は後者の「古い野生」についての話です。
これはつまり、
東京に本来の自然が滅ぶことなく残っていたから、部分的な復興が間に合った
もしくは
新しい生活様式に適合することができた
という話ですよね。
そのため、本書の内容をもって「環境改善をきっかけに失われた生態系を取り戻せるんだ」などど考えることはできない。そういった事例ではありませんでした。
実際、本書の著者がカワセミを観察していた河川についての記述でも、「水質悪化によって一度絶滅してしまった淡水魚は戻ってこない」という様な記述があります。
著者がカワセミを観察していた川としてA川、B川、C川という3つの例が挙げられており、その川についての説明文を引用してみます。
BOD(生物化学的酸素要求量)の数値を見る限り、1960年代から1980年代までの30年以上の間、神田川は、フナやコイですら棲めない死の川だった。魚が暮らせるようになったのは1990年代以降である。A川もB川もC川も、神田川の汚染データと似たような歴史を経ている。淡水魚は海から遡上できないから、いったんその川で死滅すると気水魚と異なり海から侵入することは不可能だ。人工的に放流しない限り、淡水魚が再び泳ぎだすこともないのである。
『カワセミ都市トーキョー』P.212より引用
そのため、私が本書から学んだ内容としては
- こういった再生の事例もあるよ!
ではなくて、
- 一度絶滅してしまった生態系は”再生”はできない
- 現存する生態系は手遅れになる前に保護する必要がある
- そうでないと”復興”も間に合わなくなる
というものになりそうです。
ただ、それだけではなく本書で提唱されている「新しい野生」についても改めて考えてみたいです。
今まで漠然と「保護」「保全」ばかり目が行きがちでしたが、新しい適応・共存のかたちにも目を向けなければいけないようです。
そもそも、人間の手で「保護」「保全」をしようというなら、それで得られるのは旧来のものとは違う「新しい生態系」以外の何物でもありませんからね…。
関連する読書メモ
・『森林に何が起きているのか』
本書と直接つながりのある内容ではありませんが、この本では「森林」について取り上げ適切に管理していくことで人類活動による気候変動対策への活路を見出そうという内容があります。これもまた「新しい自然との付き合い方」の一つ(あまりにも人間本位が過ぎますが…)とも言えるのかなと思いました。
・『サケマス物語』
サケやマスの放流について考える本です。この本でもサケの「自然産卵の活用」についての話題で「近年川の水質が改善してきている」という様な記述がありました。サケは海から川を遡上してくる魚です。そのため、サケの保護を考えるのであれば、より川の環境改善が効果を発揮するのでしょうか?
気になった言葉
後日調査したらリンクを追加予定です。
- バイオフィリア仮説
ひとこと
「生態系が再生してカワセミが戻って来たよ!よかったね!」みたいな本かな、とちょっと思って買った部分もありましたが、全く異なり
- 新しい自然
- 河川水質改善
- 淡水魚の絶滅
- バイオフィリア仮説
など、新しく考えさせられる要素が盛沢山の面白い本でした。
本書を起点としてさらに「人間と他の生物との共生」について調べてみようと思います。