「森林」について学ぶ一環として本書を読みました。
本書では、樹木に対する様々な見解が示されており、樹木同士の助け合いや役割、他の生物との関わりや移動など様々な内容を読むことができます。
今回は『樹木たちの知られざる生活 ―森林管理官が聴いた森の声―』を読んで、目に留まった要素を残しておきます。

- 著者
- ペーター・ヴォールレーベン
- 訳者
- 長谷川圭
- 出版社
- 早川書房(早川文庫NF)
- 発行日
- 2018年11月06日
この本について
どのような本か
ジャンル
自然科学
テーマ
様々な研究結果を通して樹木への理解を深め、接し方を考える
どんな人に向いているか
- 木について知りたい人
- 森林について考えたい人
注目した要素
- 1
木は社会を作っている
根と根を覆っている菌根を通じて周りの木と助け合っている。傷を負った気を助けるため値を通じて糖液を提供することもある - 2
木は移動する
木は”種子”を通じて間接的に「移動」をする - 3
ストリートチルドレン
”親”に当たる木と離れて育つ木は誤った成長の仕方を正されず「ストリートチルドレン」となる。また、根を切られる、周囲の土を踏み固められる、常に光に照らされるなどストレスの多い環境で成長が阻害される
所感メモ
本書を選んだ理由
「森林」について学ぶ一環として本書を読みました。
森林について学ぶのであれば、どうしても「木そのもの」についても知らないといけないと思うようになり、偶然目に留まった本書を読むことにしました。
木の社会
本書で面白いと思った内容です。
木は「社会」を作る能力があり、周囲の木々と助け合ったり、連絡を取り合ったりしているとされています。
「会話」をしているという表現もあったかと思います。(日本語訳版を読んでいますので、原本がどうかわかりませんが)
- 木の根が直接つながってor根の先を包んだ菌糸を通じて栄養の交換を行うことがある
- 暑さ寒さや風に耐えやすくなる、水を貯えやすくなる、など木が棲みやすい環境を作りだせる
- 方向物質を通じて危険を互いに知らせ合うことがある(害虫、草食動物の接近など)
- 災害などで傷を負った木に対して周囲の木が糖液を供給し生かし続ける事がある
など、さまざまな「森林の木々が互いに助け合っている」事例が紹介されていました。
また、それと比較するように人間が栽培している植物は、その「社会」や「会話」のような能力を失ってしまっているという様な記述もありました。
面白かったので引用してみます。
森林というコミュニティでは、高い樹木だけでなく、低木や草なども含めたすべての植物が同じような方法で会話をしている可能性がある。しかし、農耕地などでは、植物はとても無口になる。人間が栽培する植物は、品種改良などによって空気や地中通じて会話する能力の大部分を失ってしまったからだ。口もきけないし、耳も聞こえない。したがって害虫にとても弱い。現代の農業では農薬をたくさん使うようになった。栽培業者は森林を手本として、穀物やジャガイモをおしゃべりにする方法を考えたほうがいいのではないだろうか。
『樹木たちの知られざる生活』P.24より引用
「無口」であるというのは、つまり互いに助け合うことをやめてしまったということでしょうか?
森林の木々をはじめとした植物は互いに栄養を分け合ったり、危険を知らせ合ったりして繁栄しているわけですが、人間によって品種改良をされて「栽培植物」となった種はそれをしなくなった。
つまり、本来は植物たちが自分でやっていた生存戦略を人間に外注するようになったということかもしれませんね。
『サピエンス全史』に、農耕が始まったことで人類が植物に家畜化されたという様な表現があったかと思います。
(前略)食料の増加は、より良い食生活や、より長い余暇には結びつかなかった。むしろ人口爆発と飽食のエリート層の誕生につながった。平均的な農耕民は、平均的な狩猟採取民より苦労して働いたのに、見返りに得られる食べ物は劣っていた。
(中略)
では、それは誰の責任だったのか?王のせいでもなければ、聖職者や商人のせいでもない。犯人は、小麦、稲、ジャガイモなどの、一握りの植物種だった。ホモ・サピエンスがそれらを栽培化したのではなく、逆にホモ・サピエンスがそれらに家畜化されたのだ。
『サピエンス全史 上』(文庫版)P.140-141より引用
この本の内容を合わせて考えると、さらに味わい深い表現に感じられます。
これもまた、「社会」や「会話」とは違った、植物の生存戦略なのかもしれないと思いました。
”ストレートチルドレン”の木
もう一つ、覚えておきたいと思った内容です。
人間によって本来の生息地と違った環境に植えられてしまう木も存在すると思います。
そのようにして人間の縄張りに植えられてしまった木々は「ストリートチルドレン」となり、あまり良くない結末を辿る場合があるという内容です。
- 誤った成長を止めるたり、栄養を分けてくれる親木がいない
- 景観のために枝を切り落とされ、光合成の量が減り根が弱る
- 枝を切り落とされた傷口にワックスを塗られ水分が閉じ込められ、腐敗したり菌類が繁殖しやすい環境をつくられてしまう
- 周辺の土地に人間が出入りすることで地面が踏み固められ息苦しい
- 呼吸のために根を伸ばし、下水管に接触すると切り倒されてしまう
等々、木にとって生きづらく、必死に生きようとすることで人間の怒りを買って切り倒されてしまうという様な結末が紹介されています。
本書はおそらくドイツをはじめヨーロッパでの話が中心だとは思いますが、日本でもありそうな話だと思います。
原生林の再生
本書を読んで一番印象に残った内容です。
ドイツが原生林を取り戻すため「今後一切手を加えない」として国立公園化したトウヒとマツのプランテーションの今後に関する話です。
まず、キクイムシをはじめとする昆虫が発生して、増殖する。人間によって、暖かすぎたり乾きすぎていたりする場所に整然と並べられた針葉樹は、この攻撃に抵抗する力がない。数週間後には樹皮を食べつくされ、木は死んでしまう。大量の昆虫による樹木への攻撃が森林火災のように広がり、かつての経済林は樹木の残骸が並ぶ荒れ地に変わる。
(中略)
死んだとはいえ、彼らの体内には水が蓄えられている。それが夏の熱い空気を冷やしてくれる。彼らがその場で倒れれば、幹が天然の柵となってシカなどの侵入を阻んでくれるので、生まれたばかりのナラやブナ、ナナカマドは食べられずにすむ。そして、いつの日か完全に朽ち果て、貴重な腐葉土になってくれる。
『樹木たちの知られざる生活』P262-263より引用
この後も「原生林」が復活するまでのプロセスの話は続いていくのですが、私が気になったのはこの引用部分です。
結局、人間が「植樹」した木は抵抗力を持たず、人間が手を加えなければやがて死んでしまう。しかし、その第一世代の木が死んだ後も、引き続き人間が余計な手を加えなければ、新しく土壌を作ってくれる。
そして、そこに新しく木が芽生え、世代を追うごとに安定していく。人間1世代では想像もつかないような時間がかかるのでしょうが、人間による開発や余計な手入れを止めることさえできれば途方もない時間をかけて原生林は復活可能だということだと思います。
最近、森林に関する本を何冊か読んでいますがどれも「日本の森林は手入れがされず荒廃している」という記述がみられます。
これらの「荒廃した」日本の森林も途方もない時間をかければこのように原生林として復活することが可能なのでしょうか?
日本の森林は山、つまり斜面にあることが多く、また降水量も多い地域のため、せっかく土壌がつくられても流出してしまい、このように上手くいかないのかもしれません。
「土壌が定着するまで適切に管理ができれば再生できる」と考えて取り組むしかないのでしょうか。
発展を考える
植物も面白い
結局のところ、本を読むたびに調べたい分野が広がっていますが…「植物」についてもっと知りたいと思いました。
当然、引き続き「森林」について調査することもこれに含むつもりですが、過去の気候変動の様子を植物の化石から追う様な内容ありましたので、もっと「植物に詳しかったらなぁ」と思う機会も多かったです。
まずは本書に引き続き「木」から、少しずつ植物についても調べていきたいと思います。
関連する読書メモ
・『森が消えれば海も死ぬ』
思いがけずこの本の内容が登場しました。「森が作った土壌が河川を通じて海に流入し、魚介類を養う」という考え方になります。これもまた樹木の持つ立派な役割と言えるでしょう。いろいろ本を読んでこういうつながり方をすると面白いですね。
・『森林に何が起きているのか』
私が「森林」についていろいろ調べることになったきっかけの本です。内容は多岐に渡りますが、森林火事の知識や森林を切り開いてしまうデメリット、気候変動に対して森林・木材を有効活用して対処する案など、印象的でした。
気になった言葉
後日調査したらリンクを追加予定です。
- 森林
- 樹木
- 菌類
ひとこと
思いがけずとても面白い本でした。
この本は研究やデータから導き出されたものではないようです。しかし、実際に森林に入って観察した結果として感じられた内容がまとめられていますので、かなり説得力がありますね。
このような内容を研究している人もいるのでしょうか?似たような内容の本が無いか調べてみたいと思いました。