「遊牧民」について学ぶ中で本書を読みました。
本書では、現存する遊牧民と一緒に生活した著者の経験をもとに、その文化や起源、人類史といった内容が提示されています。
遊牧民の本というと、ヘロドトスの『歴史』や司馬遷の『史記』などを引用してスキタイと匈奴といった「遊牧国家の歴史」を追うような系統の本も多い中で、本書はそれだけに留まらないとても良い本だと思いました。
今回は『遊牧の人類史 構造とその起源』を読んで、目に留まった要素を残しておきます。

- 著者
- 松原正毅
- 訳者
- -
- 出版社
- 岩波書店
- 発行日
- 2021年08月05日
この本について
どのような本か
ジャンル
人類
テーマ
現存する遊牧民の生活から、遊牧の社会構造と起源を探る
どんな人に向いているか
- 遊牧民について知りたい人
注目した要素
- 1
家畜の認識体系
家畜の年齢原理→身体的特徴(耳の形、毛の色など)→個体名と系譜関係、というような体系で家畜を識別している - 2
遊牧の起源
野生動物群との共生から始まった?野生のヤギ・ヒツジ→ウシ→ウマ→ラクダの順で適応していった可能性 - 3
自然との共生
遊牧の基盤が「現生人類と野生動物群の共生関係の構築」にあり、「土地の所有観念」は不要であった
所感メモ
本書を選んだ理由
「遊牧民」について調べる一環として本書を読みました。
また、冒頭にも少し書いた通り、遊牧民系の本というと「歴史」に焦点を当てたものが多いです。そのため、「文化」に関する情報が得られる本を探しており、本書ならそれが得られるかも?と思ったことも要因です。
「ノマド」という言葉
まず、遊牧の起源についての内容です。
こういった場面の定番として、最近「遊牧」という意味でつかわれる”ノマド”という言葉の定義について引用してみます。
英語では、遊牧に当たる言葉としてノマディズム(nomadism)がもちいられる。このノマディズムのもとになったノマッド(nomad)は、ギリシア語のノマス(nomas)に由来している。ノマスのもとの意味は、放牧場をもとめて歩き回ることである。このノマスには、本来的に家畜分を含めた全生活体系の移動という意味合いは薄いようだ。学術的な用語としては、遊牧としてパストラル・ノマディズム(pastoral nomadism)がつかわれることがおおい。パストラルの名詞形パストラリズム(pastoralism)は、牧畜の意味である。
『遊牧の人類史 構造とその起源』P.8より引用
そもそも、この調査の発端が最近の資本主義の世界における「ノマド」という言葉の使い方に違和感を覚えたことですので言葉の定義は大切にしておきたいです。
ノマドのもとになった「ノマス」という言葉は、先ほどの引用部の通り「放牧場をもとめて歩き回る」という意味とのこと。
詳細なニュアンスまでは把握できませんが
- 場所に縛られない
- 自由に移動する
- 土地からの解放
といった意味合いはこの時点では持っていないように感じます。
個人的にはどちらかというと、「必要に駆られて場所を探している」というような生業の一部というような意味合いがあるように感じます。
定住する人間の目から見た「遊牧」という価値観が必要なのかもしれません。
- 定住による農耕生活
- 国家による束縛
- 生活環境の固定化
こういった現実からの逃避を求めるような感情が乗ってきているのが現在用いられる「ノマド」なのかもしれいないと思いました。
そういった意味では、自身の生活も含めて「定住」から発展した文明をさらに掘り下げる必要もあるかもしれません。「文明」や「国家」の知識も併せて改めて考える機会を設けたいと思います。
こちらについても引き続き調べてみます。
遊牧の起源は?
続いて、遊牧の起源に関する内容です。
まず、遊牧は野生動物の群れと行動を共にすることから発展して生まれたとされています。
遊牧に関する五畜(ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ、ラクダ)の群れに、現生人類の群れが合流し、
- 乳
- 毛と皮
- 肉
- 労働力(運搬力?)
- 移動力
こういったものを得る、そしてその代わりその動物の群れを守る(野生動物がそれを必要としていたかは別として…)という共生関係が「遊牧」の起源であるとされていました。
- 牧畜:特定の牧場に家畜を住まわせ管理する
- 遊牧:野生動物の群れと一緒に人間が行動する
という分け方でしょうか。人間の群れの中に家畜を加えるのか、動物の群れの中に人間が加わるのか、という見方もできるのではないかと思いました。
何にしても、現状はともかく「遊牧」の原初の姿は野生動物の群れとの共生であったこと、そしてある意味では自然との共生であったとも言えるかもしれません。
遊牧生活の支持基盤ともいえる乳・毛・皮・肉は、いずれも共生関係を構築した野生動物群(のちには家畜群)から産出する資源である。これらは、長期的な観点からみれば、すべて自然の循環のなかからもたらされる資源といってよいだろう。のちに家畜化が進行するなかでそれぞれの品質をめぐって現生人類側の選択がはじまるが、もともとは人為的な介入のない自然の産物の位置にあったとかんがえられる。そうした自然の産物との位置づけにあった期間の方が、厳しい選択による人為的な介入が始まってからの期間よりもはるかにながかったであろう。これは、遊牧が本来的に自然との共生を基盤にしていることが反映されているからである。
『遊牧の人類史 構造とその起源』P.192より引用
こういった自然との共生という観点は、遊牧そのものを調べる上でも、現代で言う「ノマド」の調査のためにモデル化を考える上でも重要だと思います。
発展を考える
引き続き調査
本書では、実際に著者がトルコ系遊牧民「ユルック」と行動を共にして得た情報を基に書かれているようです。
そのため、遊牧民の文化や生活に関する内容をかなり取り扱われており、求めていた内容にとても近い本でした。
という本書を読んだ上で次を探すのはとても難しいでしょうか、もう少し別の研究者の方の目から見た「遊牧民の文化・生活」に関する本を探したいと思います。
もしくは、松原正毅さんの別の著書を読んでみるのもいいかもしれません。
ただ、古い本は絶版になってしまっているのか若干入手が難しそうな本も多く、どうしようかなという感じです。
引き続き調査していきます。
関連する読書メモ
・『遊牧民から見た世界史』
最初に読んだ「遊牧民」系の本です。タイトルに「世界史」とある通り、歴史メインです。ただ、スキタイ・匈奴・モンゴル系についてかなり体系的に書いてあるため、1っ冊くらいはこういった本を読んでみてもいいかもしれません。
気になった言葉
後日調査したらリンクを追加予定です。
- 遊牧
ひとこと
繰り返しになりますが、本書は遊牧民の文化・生活に触れている貴重な本でした。
現在絶版になっていなさそうな本の中では一番良い内容かもしれません。もし、現在遊牧について学びたい方がいましたら、まず本書をおすすめします。