「定住」について考える過程で本書を見つけました。
本書では、大雑把に言うと「狩猟採取→農耕生活への移行は果たして進歩と言えるのか?」という様な考えが展開されていきます。
ここでは、『反穀物の人類史 国家誕生のディープヒストリー』を読んで、気になった要素を整理してみます。

- 著者
- ジェームズ・C・スコット
- 訳者
- 立木勝
- 出版社
- みすず出版
- 発行日
- 2019年12月19日
この本について
どのような本か
ジャンル
人類史、歴史
テーマ
「ホモ・サピエンスは望んで定住をしたのか?」をテーマに、「穀物」「マンパワー」という観点から”穀物国家の誕生”の経緯を考える
どんな人に向いているか
- 『サピエンス全史』を読んだ人の次の一歩に最適
注目した要素
- 1
気候変動による水辺への密集
ヤンガードリアス期の乾燥化により水辺へ人口が集中 - 2
穀物、マンパワー、支配と収奪を基に国家の基盤が発生
穀物は徴税官が「分配・貯蔵」に都合がよかった - 3
国家を維持するために侵略が進む
国家の圧政から逃げる人が出ると、当然戦争や奴隷売買によって国家はその穴を埋める
所感メモ
本書を選んだ理由
『サピエンス全史』を読んでいても、「農耕は罠であり、人類は穀物の奴隷になってしまった」という様な記述が出て来ており、気になっていました。
また、私は現在「定住」をテーマに調査を進めています。
そうなるとやはり気になってくるのは「人類は望んで国家を形成したのか?」だと思います。そのために本書を手に取りました。
”穀物国家”の圧力
本書での中心になる「穀物国家」という概念があります。
当然、それは他の歴史系の本をでも取り上げられる「定住させて農民に穀物を作らせ、穀物を税として納めさせる国家」という考え方でいいと思います。
- 農耕の開始
- 道具や穀物貯蔵のため定住
- 余剰食糧の貯蔵
- 役人、職人を養えるようになる
- 記録のために文字発生
- 冶金等の技術発展
この流れで階級が生まれ、それが国家になっていく。
こういった説明がされる場合が多く、そしてこれは”文明の発生=人類の進歩”と扱われることも多いです。しかし、本書では若干違った視点が提供されています。
- 豊かな自然の恵みを得るため定住
- 気候変動により農耕に着手
- 役人、職人の誕生
ここまでは同様でしょうが、これを基盤として誕生した「国家」が干渉してきます。
ひとたび国家が誕生してしまうと、国家は非生産者(役人、職人、兵士等)を維持するためにより多くの食料を生産する必要に迫られることになります。
- 国家が小農に”定住”を強制
- 税として穀物を徴収
- 生産者は余剰文も含めた生産を強要される
- その”人”と”税”の管理のため文字が発生
国家や国家のエリートたちは自分達が食べる分の食料も小農に生産させる必要があり、そうなれば、小農たちは自分の目の届きやすい場所に定住させた方が管理がしやすいことになります。
当然、定量的に取り逃しがないように徴税するためには「記録」が必要となり、文字が発明させることになります。
また、本書で”穀物”国家ととされる理由については
穀物が地上で育ち、ほぼ同時に熟すということは、それだけ徴税官は仕事がしやすいということだ。軍隊や徴税役人は、正しい時期に到達しさえすれば、1回の遠征で実りのすべてを刈り取り、脱穀し、押収することができる。
『反穀物の人類史』P.227-228より引用
徴収するために都合がいいから、”穀物”を生産させる。
「国家」の目線からこの定住→食料生産の流れを見ると、現代もここから何も変わっていないことがよくわかりますね。
何だかディストピア的に見えてきます。「国家」ってなんというか…。
国家の”崩壊”は誰目線か
当然、国家がこのような「人を縛り付け、生産させ、搾取する」ということを続けていれば、農民たちも逃げ出そうと考えるのは当然でしょう。
国家も当然対策を考えます。
オーウェン・ラティモアらは中国の万里の長城をつぶさに観察したうえで、頂上は野蛮人(遊牧民)を入れないためと同じくらい、国内の納税者、耕作者を外に出さないために築かれたのだとした。つまり都市の壁は、国家の維持に不可欠なものを外に出さないことを意図していたのだ。
『反穀物の人類史』P.128より引用
とはいえ、全ての流出を止めることなど不可能であり、国家はその空いた穴を
- 戦争による捕虜獲得
- 奴隷の購入
これらを用いて埋めていたということです。
”奴隷”は国家形成・維持の基盤として不可欠なものであり、本書でもかなり分量が割かれていますので、一度直接読んでみてください。
そして、農民たちの流出により複雑なシステムを時できなくなった国家は「崩壊」していくこととなりますが、
(前略)崩壊だと思われてきたものの多くが、むしろ、大きいが脆弱な政治単位から、小さいがたいていは安定した要素への分解だったことが見えてきたことだ。「崩壊」は社会的な複雑さの減少を意味するが、その一方で、こうした小さな権力の核の方が短期的な国政術の奇跡で一気にまとめ上げた大王国や大帝国よりもはるかに維持しやすい。
『反穀物の人類史』P.172より引用
我々現代人は、文字として記録に残っている情報や古代の建築物の遺跡から過去について考察するしかないわけですので、「崩壊」はその文明の終わりを意味することになります。
しかし、それは「より安定した形態への分解」だったとするのであれば、今まで歴史上で文明の”悲劇的な終焉”のように見えていたのはあくまで「文字を使って記録を取っていたエリートたちの目線」で見た結果でしかなかった、ということになります。
この視点はとても面白いと思います。
発展を考える
やはり”遊牧民=ノマド”か?
以前から「ノマド」は調査しようと思いつつなかなか手を付けられずにいます。
本書でも遊牧民の存在が定住農耕民の存在と切っても切れない関係であったことは言及されていました。
(前略)遊牧民は交易拠点としてだけでなく、マンパワーと収入の貯蔵所としても定住コミュニティを必要としたというコンセンサスがあるようだ。遊牧民が、そうした貯蔵所を創るために農耕民を強制的に再定住させたことはすでに知られている。さらにこの見解によれば、野蛮人の同盟は、大規模な定住政体に隣接して規制する「影の帝国」として運営されている。
『反穀物の人類史』P.227-228より引用
そうであるなら、やはり、農耕民から生まれた国家やその定住について知りたいのであれば、その周囲にあった無国家民についても調べる必要があると思いました。
無国家民は、当初定住民から搾取しようとし、のちに交易・傭兵としての付き合い方へと発展し、最終的に取り込まれていったとされていました。
前回、「ノマドワーカー」の本を選ぼうとして失敗したため、まずは「遊牧民」をキーワードに1冊読んでみようと思います。
関連する読書メモ
・『サピエンス全史』
この本と同様に「定住・農耕・国家発生」のセットが取り扱われています。同時に「人類が穀物の奴隷になった」という様な記述も(さらっとですが)登場し、補完し合える本だと思います。
・『教養としての「世界史」の読み方』
本書で取り上げら得れていた「乾燥の影響により水辺に人類が密集して国家発生」はこの本でも言及されています。ただ、同時に『サピエンス全史』、『銃・病原菌・鉄』で述べられている「農耕→国家」の流れと結びつき方が分からない内容でもありモヤッとしていましたが、本書の内容により結びついたように思います。
気になった言葉
後日調査したらリンクを追加予定です。
- ヤンガードリアス期
ひとこと
- 農耕民、採取民は単純に区分できない
- 農耕への移行は罠だった
等々、人類史に関する本を読んでいると本書の主張と近い記述に出会うことはありました。
そこで、この「穀物と国家形成」に特化した本が存在していたことはとても面白かったです。『サピエンス全史』とセットで読むべき本でしょう。